続・おごっそうの玉手箱① 上野令子さんをお訪ねして
この度、「おごっそうの玉手箱」の聞き書きを再開いたしました。大好きな北杜市を中心に、ご縁あって出逢った県内外の方々のご馳走を聞き取り、一つひとつを玉手箱に収めて参ります。末永くご愛読いただけましたら幸いです。
久しぶりに、「おごっそうの玉手箱」の取材再開です。どんな”おごっそう”に出合えるかなと、こころ躍りながら北杜市長坂町の上野令子さん(87)をお訪ねしました。
今春から私は、同町のcommunity cafe たんぽぽ食堂で週1~2回料理を作っているのですが、たんぽぽのリーダーが上野しのぶさん。令子さんは義理のお母様にあたります。そして*鉄の造形作家として活躍する上野玄起さんのお母様。約30年前、3人で大阪から移住し、自然豊かな環境の中、豊かな暮らしを営んでいます。
住まいの所々には温もりのある玄起さんの作品が置かれ、その美しい小宇宙にうっとり。時を刻む時計は、なんと農耕器具をリメイクしたユニークなものでした。語りたいあれやこれやは本日割愛し、玄起さんのお話はまたの機会にー。
令子さんのお話に戻ります。しのぶさんから「義母は栗やクルミ拾い、山椒やふき摘みの名手!季節折々、秘密の収穫場所に1人で出かけていくの。目的に向かってまっしぐらで、誰もついていけないわよ!」と伺っていたので、かねてより興味津々。「同行のお許しが出た暁には、ぜひ取材を」と申し込んでいました。
半年待って、ようやく好機到来。秋晴れの昼下がり、令子さんの栗拾い同行と相成りました。「秋の晩は毎年、風の音を注意深く聞いています。大風が吹いた早朝は皆が寝静まる中、こっそりと家を出て一人で秘密の場所に出かけ、誰よりも先に到着して栗拾いをするの」と愉しげに語る令子さん。「拾う方々が高齢化したからなのかなぁ、今年は拾う人が減ってしまい、のんびり昼間に出かけても栗がわんさか落ちているのよ。」すでに今秋、5回目。ほぼ毎日のように足繁く通っているのですって。
案内された秘密の場所に生えていた大木は山栗。普段店頭で目にする栗の半分~1/3の大きさで、さぞかし集めるのに時間がかかり、剥くのも大変だろうな・・・と早くもひるんでしまった私。
「ここに越して来た頃はまだ木が小さくて、栗もずっと小さかったのよ。でも、山栗の甘さは最高で拾わずにはいられない。今年は例年より黄色くて上出来です」と令子さんは太鼓判を押します。「ほら見て!風の通り道に栗が落ちているでしょ。ほらここにも、そこにも・・・。あ、あそこにあんなに大きな栗!」御年87歳とは思えぬ軽やかな身のこなしで、イガが敷き詰められた栗道を自在に歩きます。杖は格好の「栗拾い棒」と代わり、栗を手元に引き寄せ、コツコツとリズムよくたたいてイガを緩め、靴のつま先でイガをくるりと剥き、素手で実を取り出してビニール袋に納めます。あれよあれよと袋はいっぱい。30分足らずで2kg近く拾ってしまった令子さんです。帰り道に向かうも、“栗の目”は冴え冴え。「あそこに大きいのがありますよ!あら、ここにも!」といそいそと拾い続けています・・・。なんと、チャーミングな女性でしょう♪私にもウキウキが伝染して、飽くことなく二人で拾い続けました☆
帰宅後、疲れ知らずで「栗ご飯」を伝授して下さいました。収穫したての栗は洗って、即冷蔵庫に入れて10日程寝かせることをお勧め。大阪在住時、栗の名産地からの直伝された甘みを引き出すコツを以降実践しています。本日は熟成栗と差し替えて栗剥き作業へ。「栗剥きはただでさえ難儀なのに、こんなに小さな栗を剥くのは大変ですね~」と嘆く私に、令子さんは「いえいえ、私には”栗くり坊主”がありますから、大丈夫です」と涼しげに応答。キッチンの椅子に腰掛けて、手慣れた様子で栗をスイスイむき始めました。専用栗むき器を上手に操って、外側の硬い鬼皮の尖りから両肩、お腹と背中をむき、続いて内側の渋皮むき。お尻を剥き終えるまでわずか1分。水に30分程度つけてアクを抜きます。本日は栗をさらしている間、自家製のお米を精米し、浸水。段取り上手で一切の無駄がありません。
炊飯器は使い込まれた電気圧力鍋。「ここは高度が高いでしょう。引っ越してきた時、ご飯がうまく炊けず、しのぶさんのお母さんが電気圧力鍋を送ってくれて、以降愛用して2代目になるの」とのこと。
炊き上がって蓋を開けると、甘い香りが漂い、艶々。令子さんが「どうぞ!」と差し出してくれた熱々の栗の味わい深さが忘れられません。
秋は一層月の美しい季節。9月「中秋の名月」である芋名月に対し、10月の「後の月」13夜は栗名月と言われています。折しも本日は10月の満月。暦と共にある食卓につける喜び、そして「おごっそうの玉手箱の聞き書き」を再開出来たことに、無常の喜びをかみしめました。
上野家の皆様、すてきな時間をどうもありがとうございました。
山栗で栗ご飯
【材 料】米 3合、*山栗(正味) 300gくらい、塩 小さじ1
【作り方】①米は精米し、手早く水洗いして電気圧力鍋にセットして分量まで水を注ぐ。約30分浸水させる。
②塩を加えて全体になじませ、山栗を上部にのせてふたを閉める。点火して自動炊飯し、炊き上がったら10分程蒸らす。
③全体をさっくりと天地返しし、お茶碗に盛って出来上がり。
*山栗の扱い方*
①山栗は収穫したら表面を水洗いし、しっかりと水気を切って密閉袋に入れて冷蔵庫で1週間~10日間追熟させる。虫食い栗を見つけたら、美味しくないのであらかじめ取り除いておく。
②皮をむき、水に放って約30分おいてアクを除き、水気をしっかりと拭き取る。栗ご飯1回分量に分けて密閉袋に入れて平らに均して冷凍する。固まったら縦に並べて保存し、必要に応じて使用する。来秋の栗収穫直前までに使い切る。
(栗剥き器がない場合、熱湯に1分ほど浸して鬼皮を柔らかくしてからザルに上げ、ペティナイフでむく)
※栗ご飯の他、栗おこわも令子さんの十八番。栗おこわはもち米2合にうるち米1/3合を加え、日本酒少々で風味付けして炊飯する。うるち米を少量加えることで冷めても硬くならずに美味しくいただける。
※冷凍保存した栗は、ご飯の他、甘く煮てきんとんや、栗蒸しようかん、ケーキなどに入れて楽しむ。(ご飯以外の栗料理はしのぶさんが担当とのこと)